AIの法律相談に弁護士が赤入れすると、どこを見るのか
ChatGPTなどで作った法律相談メモを弁護士が確認するとき、どの部分に注意するのか。事実、証拠、法的構成、相手方の反論、手続選択の観点から整理します。
SNS投稿をめぐる相談で、AIが名誉毀損や慰謝料請求を強く勧める回答をした場合に、弁護士がどこを確認するのか。投稿内容、同定可能性、証拠保全、費用対効果を整理します。
SNSで自分のことを書かれたと感じたとき、AIに相談すると「名誉毀損にあたる可能性があります」「慰謝料請求や発信者情報開示を検討しましょう」という回答が返ってくることがあります。方向として完全に間違っているとは限りません。ただ、その回答だけで事件として進められるかは別です。
たとえば、Xで次のような投稿をされたという相談を考えます。
あの店、対応が最悪だった。店長も客を馬鹿にしている感じ。二度と行かない方がいい。
相談者は、自分の店のことだと思い、AIに聞きます。
この投稿は店舗と店長の社会的評価を低下させる内容であり、名誉毀損または業務妨害にあたる可能性があります。投稿者に削除を求め、応じない場合は発信者情報開示請求を行い、慰謝料や損害賠償を請求することが考えられます。スクリーンショットを保存し、早急に弁護士に相談してください。
この回答は、法律用語の並べ方としてはそれらしく見えます。投稿削除、発信者情報開示、損害賠償という流れも、インターネット上の権利侵害では実際に問題になります。
しかし、弁護士として見ると、まず「誰のことだと分かる投稿なのか」を確認します。
名誉毀損やプライバシー侵害を検討する場合、投稿を読んだ人が誰のことだと分かるのかが重要です。店名が書かれているのか、写真があるのか、地域や日時、過去の投稿とのつながりから特定できるのか。相談者本人は「自分のことだ」と分かっていても、第三者から見ても分かるとは限りません。
AIの回答例は、相談者の「自分の店のことだと思う」という前提に引っ張られています。法律相談では、ここを一度疑います。投稿単体で分かるのか、投稿者の過去投稿を合わせれば分かるのか、フォロワーの範囲では分かるのか。ここを見ないまま「名誉毀損です」と言うのは危険です。
次に、投稿の内容を分けます。「対応が最悪だった」「二度と行かない方がいい」という表現は、かなり主観的です。一方で、「店長が代金を横領している」「期限切れの商品を売っている」といった具体的事実が書かれていれば、検討の仕方は変わります。
名誉感情を害する表現なのか、社会的評価を低下させる具体的事実なのか、意見論評として許容される範囲なのか。ここを分けずに、嫌なことを書かれたから名誉毀損、という方向に進むと、現実の手続では苦しくなります。
ネット上の投稿では、スクリーンショットだけで足りるかも問題になります。投稿URL、投稿日時、アカウント情報、前後の投稿、リプライ、引用、表示画面、削除前の保存状況を確認します。発信者情報開示を考えるなら、ログ保存期間の問題もあります。
AIは「スクリーンショットを保存」と言うことが多いですが、実務ではそれだけでは心細い場合があります。URLが分からない、投稿日時が切れている、アカウント名変更後に追えない、削除されている。そうなると、相談の時点で取れる手段が狭くなります。
投稿を削除したいのか、投稿者を特定したいのか、損害賠償まで求めたいのか、今後の投稿を止めたいのか。ここを決めないと、手続の選び方がずれます。
発信者情報開示は、時間も費用もかかります。投稿内容によっては、弁護士が入って削除要請をする、プラットフォームの通報を使う、反論せず記録だけ残す、という選択の方が現実的なこともあります。AIは「できる可能性がある手続」を並べますが、「その事件でやる意味があるか」までは弱いことがあります。
AIを使うなら、最初から「名誉毀損で訴えられますか」と聞くより、次のように聞いた方が整理に向いています。
SNS投稿について相談します。投稿内容を、事実の摘示、意見・感想、侮辱的表現に分けてください。投稿を読んだ第三者が私や私の店を特定できる事情が必要かも教えてください。削除、発信者情報開示、損害賠償を考える場合に必要な証拠を、URL、投稿日時、スクリーンショット、前後の投稿に分けて整理してください。断定せず、確認が必要な点を明示してください。
この聞き方にすると、AIは結論を急ぎにくくなります。少なくとも、投稿の内容、同定可能性、証拠、手続の目的を分ける形に近づきます。
AIの回答を持って相談に来る場合は、投稿そのもの、URL、スクリーンショット、投稿者との関係、これまでの経緯も一緒に確認します。AIが「名誉毀損です」と言ったかどうかより、その投稿を現実の手続に載せられるかが問題です。
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