AIに法律相談するとき、個人情報はどこまで書いてよいか
ChatGPTなどの生成AIに法律相談をするとき、氏名、住所、契約書、相手方とのやり取りをどこまで入力してよいか。回答の精度を落とさずに情報を伏せる方法を弁護士が解説。
AIが作った法律相談の回答例をもとに、弁護士が事実、証拠、相手方の反論、通知後の展開をどう確認するか、実際の赤入れに近い形で解説します。
AIに法律相談をすると、答えはたいてい読みやすくまとまっています。使えそうな法律が挙がり、こちらに有利な事情が整理され、最後には「証拠を保存し、必要に応じて専門家へ相談してください」と書かれる。間違ったことを言っているようには見えません。
そこが難しいところです。存在しない判例が引用されていれば、調べれば誤りに気づけます。しかし、一般論は正しく、結論だけが少し早い回答は、そのまま信じたくなります。弁護士が赤入れするのは、文章よりも、その「少し早い」部分です。
業務を依頼した相手が予定どおり納品してくれない。こちらは契約を終わらせ、支払済みの代金も返してほしい。そう入力した場合の、架空の回答例です。
相手方が合意した納期までに成果物を納品していない場合、債務不履行に当たる可能性があります。相当の期間を定めて履行を催告し、それでも履行されなければ契約を解除できる可能性があります。解除後は、支払済み代金の返還や、遅延によって生じた損害の賠償を請求できる場合があります。契約書、納期を確認できるメール、支払記録などを保存し、内容証明郵便で解除通知を送ることを検討してください。
一般論として、明らかにおかしい文章ではありません。むしろ、相談した側が知りたかったことが、きれいに返ってきています。では、この回答を根拠に解除通知を送ってよいか。私は、まだ止めます。
最初に確認するのは、納期が本当に合意されていたかです。契約書に日付があるのか。見積書に書かれているのか。メールで「○日を予定しています」と言われただけなのか。「予定」と確定した期限では意味が変わることがあります。
こちらが素材や指示を渡すのが遅れていなかったかも見ます。相手方から「必要な資料が来ないので作業できない」と連絡があったなら、納品が遅れたという一文だけでは足りません。AIは、入力されていない事情を相手方の記録から拾うことができません。
回答中の「合意した納期までに」という短い部分に、結論を左右する事実が隠れています。
次に、今すぐ解除できるのか、まず催告するのかを考えます。AIも「相当の期間を定めて」と書いていますが、何日なら相当なのかは、制作物の内容、遅れの程度、これまでのやり取りで変わります。
相手がほとんど完成させていて、翌日に納品できる状態なのか。まだ着手していないのか。期限を過ぎたら企画自体に意味がなくなる仕事なのか。文章だけを強くしても、この判断はできません。
もう一つあります。解除通知を送った後、相手が「納期は確定していない」「遅れたのは資料不足のせいだ」「返金には応じない」と返してきたとき、どの資料で答えるかです。通知を出すことが目的ではありません。通知後のやり取りまで見通せるかが重要です。
AIは「損害の賠償を請求できる場合があります」と書きました。ここも一般論としては不自然ではありません。ただ、実際に何円の損害が出たのか、その金額と納期遅延がどうつながるのかは、別に確認しなければなりません。
別業者への追加発注費、広告枠のキャンセル料、取引先への返金。領収書や契約書で金額を示せるものもあれば、「公開が遅れて売上が減った」というように因果関係の説明が難しいものもあります。AIの回答に「損害賠償」と書かれていること自体は、請求額の裏付けになりません。
この段階で、解除と返金に話を絞るのか、損害まで請求するのかを決めます。強く言えることを全部書くより、資料に支えられた請求に絞った方が交渉しやすい場合もあります。
ここまで確認しても、最初のAI回答を捨てる必要はありません。使える一般論は残し、その一般論と今回の資料をつなぐ事実を補います。確認できない部分は断定を外し、相手方から予想される反論を置き、通知後にどう進むかを決めます。
AIとのやり取りからは、相談者が何を心配し、どの結論を求めているかも分かります。相談の入口としては有用です。きれいに書き直さず、そのまま持ってきてください。元になった契約書、メール、支払記録も一緒に見られると、AIがどこで前提を置いたかを追えます。
契約解除の回答をさらに具体的に検討した例は、AIが「契約解除できます」と言った業務委託トラブルを、弁護士ならどう見るかに書きました。AIへ相談するときの質問の組み立ては、AIに法律相談するとき、何をどう聞けばよいかでも紹介しています。
AI添削相談では、AIの回答だけでなく、その回答の元になった資料を確認します。相談だけで整理がつく案件もありますし、通知や交渉へ進む前に止めた方がよい案件もあります。まず、どこまでが資料から言えることなのかを一緒に分けます。
AIで作った相談メモ、内容証明案、相手方への返信案があれば、そのまま相談資料として確認します。