AIが「契約解除できます」と言った業務委託トラブルを、弁護士ならどう見るか
業務委託契約で納品遅れや品質不満がある場面を題材に、AIの回答例と弁護士の赤入れを示します。解除、損害賠償、催告、証拠、現実的な交渉の順に整理します。
相続で不公平な遺言や生前贈与がある場面を題材に、AIの回答例と弁護士の赤入れを示します。相続人、遺言、財産、期限、証拠、感情面を分けて整理します。
相続の相談では、「兄だけが財産をもらっている」「親の面倒を見たのに何も残されていない」「遺言が不公平だ」という話がよくあります。AIに聞くと、「遺留分侵害額請求ができます」とすぐに返ってくることがあります。
遺留分という制度はたしかにあります。ただ、相続の相談では、制度名が出たところからが本番です。誰が相続人なのか、遺言があるのか、財産はいくらか、生前贈与があるのか、いつ知ったのか、証拠は何か。ここを見ないまま「請求できます」と言うと、相談者に期待だけを持たせてしまうことがあります。
たとえば、父が亡くなり、長男にすべて相続させる遺言が見つかったという相談を考えます。次男である相談者がAIに聞きます。
子には遺留分があります。父の遺言で長男にすべて相続させると書かれていても、次男は遺留分侵害額請求をすることができます。遺留分は法定相続分の2分の1です。長男に対して内容証明郵便を送り、遺留分相当額の支払いを求めましょう。
この回答は、一般論としてはかなり近いところを言っています。兄弟姉妹以外の相続人には遺留分がありますし、子の遺留分割合も重要なポイントです。
ただ、弁護士としては、この回答のまま内容証明に進むことはありません。
まず、相続人を確認します。配偶者がいるのか、子は何人か、養子や前婚の子はいないか、相続放棄をした人がいるか。戸籍を見ないと、相続人の範囲は確定しません。
遺言の種類も確認します。自筆証書遺言なのか、公正証書遺言なのか、検認が必要なのか、形式面に問題がないか。遺言があるという情報だけでは足りません。遺言の写し、保管状況、作成時期、作成時の本人の状態なども問題になることがあります。
AIの回答例は、「長男にすべて」という入力をそのまま前提にしています。相談では、その前提を資料で確認します。
遺留分侵害額請求で大事なのは、最終的にいくら請求できるかです。そのためには、相続財産、負債、生前贈与、特別受益、評価額を確認する必要があります。
不動産があるなら評価の問題があります。預貯金なら死亡時残高だけでなく、過去の出金が問題になることがあります。生命保険、事業用財産、非上場株式、親族への贈与があると、さらに複雑になります。
AIは「法定相続分の2分の1」と説明しますが、それだけでは請求額は出ません。基礎となる財産額をどう見るかで、金額は大きく変わります。
遺留分侵害額請求には期限があります。相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年、相続開始から10年という問題です。
相談では、「いつ亡くなったか」「いつ遺言を見たか」「いつ財産の内容を知ったか」を確認します。AIの回答が制度の説明だけで終わっていると、この期限の確認が抜けることがあります。相続では、ここがかなり重要です。
相続では、不公平感やこれまでの家族関係が強く出ます。「自分だけ親の面倒を見た」「兄は何もしていない」「説明がない」という事情は大切です。ただ、それがそのまま請求額になるわけではありません。
一方で、そうした事情が交渉の背景になることはあります。資料として何を出すか、どこまで説明を求めるか、調停に進むか、早期解決を優先するか。法的に請求できる金額と、納得できる解決は分けて考える必要があります。
AIを使うなら、「遺留分を請求できますか」とだけ聞くより、次のように聞く方が相談準備になります。
父が亡くなり、長男にすべて相続させる遺言があります。私は次男です。遺留分侵害額請求を考える前に確認すべき資料を整理してください。相続人、遺言の種類、相続財産、負債、生前贈与、死亡日、遺言を知った日、期限、想定される相手方の反論に分けてください。金額は資料を見ないと断定しないでください。
この聞き方にすると、AIは制度名だけでなく、資料の整理に寄りやすくなります。
相続相談でAIを使うこと自体は悪くありません。むしろ、家族関係や財産の一覧を整理するには役に立ちます。ただし、AIが「請求できます」と言っただけでは足りません。戸籍、遺言、財産資料、期限、相手方の反論を見て、現実にどのような請求にするかを決める必要があります。
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