AIで作った訴状・答弁書を、裁判所に出す前に確認したいこと
ChatGPTなどで作った訴状や答弁書は、体裁が整っていても事件に合っているとは限りません。請求、認否、証拠、期限、提出方法を弁護士がどう見るかを解説します。
AIに法律相談をすると、自分に有利な結論がもっともらしく出てくることがあります。質問の前提、資料不足、相手方の反論、証拠の弱さをどう補うべきかを整理します。
AIに法律相談をすると、思っていたよりも自分に有利な答えが返ってくることがあります。「解除できます」「請求できます」「名誉毀損に当たる可能性があります」「相手方の対応は違法です」といった形です。法律用語も入っていて、理由も整っているので、そのまま使えそうに見えることがあります。
ただ、弁護士として読むと、結論そのものよりも、その結論に至る前提が気になります。AIは、相談者が入力した事情を前提に回答します。相談者が見落としている事情、相手方が持っている資料、契約書の細かい文言、やり取りの流れ、証拠として残っているかどうかは、入力されていなければ十分に反映されません。
たとえば、「相手が契約違反をしています。解除できますか」と聞けば、AIは解除できるかどうかを中心に答えます。解除の一般論、催告、損害賠償、通知書の文案が出てくることもあります。
しかし、実際の相談では、最初に見るべきなのは「本当に契約違反といえるのか」です。納期は確定していたのか、こちらが資料を出すのを遅らせていないか、途中で仕様変更をしていないか、相手方に修正機会を与えたのか。ここを見ないまま解除の文案まで進むと、問題の中心を外すことがあります。
AIは、質問に含まれた前提をいったん受け入れて話を進めることがあります。だからこそ、相談前の整理として使うなら、「私に不利になりうる事情も挙げてください」「相手方から想定される反論を出してください」と聞く方が安全です。
AIの回答が危ないのは、明らかなハルシネーションだけではありません。存在しない判例を出すような誤りは分かりやすいのですが、もっと多いのは、正しい一般論を使って結論まで進みすぎるケースです。
「債務不履行があれば損害賠償請求が問題になる」という一般論は正しいです。ただ、その事案で損害がいくらなのか、因果関係を示せるのか、相手方の反論に耐えられるのかは別です。「名誉毀損が成立しうる」という一般論も、投稿内容、文脈、真実性、公益性、相手の特定可能性を見ないと判断できません。
法律相談で価値が出るのは、一般論を知ることだけではありません。その一般論が、手元の資料と相手方の反論を前提にしても使えるかを見るところです。
AIが作る回答は、文章として整っています。だから、証拠が弱い部分も、文章の中では強く見えてしまうことがあります。
「相手が約束した」と書かれていても、メールを見ると単なる検討段階だったということがあります。「支払うと言っていた」と思っていても、実際には金額や期限が決まっていないことがあります。LINEの一部だけを見ると強く見えるが、前後のやり取りを見るとこちらにも不利な事情があることもあります。
AIに相談する場合でも、元資料と切り離して要約だけを作るのは危険です。相談に持ってくるなら、AIの回答だけでなく、契約書、メール、LINE、写真、請求書、振込記録、投稿のスクリーンショットなどを一緒に残しておく方がよいです。
相談前にAIを使うこと自体は有効です。時系列を作る、関係者を整理する、資料の一覧を作る、聞くべき点を洗い出す。ここまでは、かなり役に立ちます。
ただし、結論を急がせないことが大事です。たとえば次のように聞くと、回答の偏りを減らしやすくなります。
以下の事情について、私に有利な点だけでなく、不利になりうる点、相手方から想定される反論、追加で確認すべき資料を分けて整理してください。結論は断定せず、判断に必要な前提を明示してください。
この聞き方なら、AIは少なくとも一方的な結論から戻りやすくなります。それでも、資料の読み方、相手方への出し方、通知を送るタイミング、訴訟に進むべきかどうかまでは、事案に応じた判断が必要です。
AI添削相談では、AIの回答が間違っているかだけを見るのではありません。どこまで相談の土台にできるか、どこから先は資料と法律家の判断が必要かを確認します。AIを使って法律相談の入口を広げることはよいことです。その入口から先を、現実の事件に耐える形へ直すことが重要です。
AIで作った相談メモ、内容証明案、相手方への返信案があれば、そのまま相談資料として確認します。