AI法律相談で、相談者に有利な答えが出やすい理由
AIに法律相談をすると、自分に有利な結論がもっともらしく出てくることがあります。質問の前提、資料不足、相手方の反論、証拠の弱さをどう補うべきかを整理します。
ネット通販の返品相談を題材に、AIがクーリングオフ、返品特約、商品不良、個人間取引を混同する場面を示し、注文前後に確認すべき画面と資料を整理します。
ネットで商品を買ったものの、届いてみるとイメージと違った。販売店に返品を申し出たところ、「お客様都合の返品は受け付けない」と言われた。このような相談をAIにすると、次のような回答が出ることがあります。
商品を受け取ってから8日以内であれば、クーリングオフにより返品できます。販売店が返品不可と定めていても、消費者の権利が優先されます。内容証明郵便で解除を通知してください。
文章は明快です。期限も、取るべき行動も書かれています。しかし、このまま通知を送る前に止めた方がよい回答です。
インターネット通販は、通常、特定商取引法上の通信販売に当たります。通信販売には、訪問販売や電話勧誘販売に設けられているようなクーリングオフの制度はありません。したがって、「商品到着から8日以内ならクーリングオフできる」という説明は、取引方法を確認しないまま別の制度を当てはめています。
もっとも、注文のきっかけが本当に通信販売だったのかは確認が必要です。自分でサイトを見て注文したのか、事業者から電話で勧誘され、その電話中に申込みをしたのか。SNSのメッセージから購入ページへ進んだ場合も、やり取りの内容によって確認すべき点が変わります。「ネットで買った」という一言だけでは、取引の経過までは分かりません。
通信販売では、返品できるかどうかについて事業者が返品特約を表示している場合、まずその内容を確認します。返品不可、返品期限、送料負担などが、広告だけでなく注文時の最終確認画面にどう表示されていたかが問題になります。
返品特約が表示されていない場合には、商品の引渡しを受けた日から8日以内であれば、購入者の送料負担で返品できる場合があります。AIの回答に出てきた「8日」は、このルールとクーリングオフを混ぜた可能性があります。結論が似て見えても、根拠、送料の負担、確認すべき画面が違います。
ここで必要なのは、現在の販売サイトだけを見ることではありません。注文時の表示が後から変わっていることもあるため、注文確認メール、最終確認画面のスクリーンショット、利用規約、返品案内を残しておく必要があります。
色や大きさが想像と違ったという話と、注文した商品とは別の商品が届いた、説明されていた機能がない、初めから壊れていたという話は同じではありません。
後者では、単なる購入者都合の返品ではなく、契約内容に適合しない商品として何を求められるかが問題になります。販売店の返品特約に「返品不可」と書かれていることだけで、商品不良についての問題まで直ちに終わるわけではありません。商品ページの説明、掲載写真、型番、届いた商品の状態、開封後すぐの写真、販売店とのやり取りを並べて確認します。
フリマアプリなどで個人から買った場合には、相手が特定商取引法上の販売業者に当たるのか、プラットフォームの補償や取引完了の手続がどうなっているのかも問題になります。通販という言葉だけで、事業者からの購入と個人間取引を一緒に扱うことはできません。
最初のAI回答は、次のように直します。
インターネット通販には、原則としてクーリングオフの制度はありません。まず、注文時に表示されていた返品特約と最終確認画面を確認してください。返品特約が表示されていなかった場合には、商品を受け取った日から8日以内の返品が認められる可能性がありますが、送料は購入者負担となるのが原則です。届いた商品が説明と違う、または壊れている場合は、購入者都合の返品とは別に検討します。注文確認メール、商品ページ、返品条件、届いた商品の写真、販売店とのやり取りを保存してください。
この回答なら、今すぐ内容証明を送るとは決めません。先に、どのルールが問題になる取引なのかを確かめられます。AIの回答を使うときに怖いのは、法律用語がまったく出てこないことより、別の場面の正しい知識が自然な文章で混ざることです。
AI添削相談では、AIの回答だけでなく、回答の前提になった質問と元資料を確認します。AIへ相談するときの聞き方は、結論を急がせない質問の作り方にもまとめています。
参考:
この記事は一般的な解説で、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な対応は、契約書、通知書、やり取りの記録といった資料と事実関係によって変わります。
AIで作った相談メモ、内容証明案、相手方への返信案があれば、そのまま相談資料として確認します。